「随行通訳」という言葉は聞きなれないだろう。
通訳にもいろいろな種類があって、
随行通訳というのは、文字とおり誰かに随行しながら通訳をすること。
比較的簡単な通訳が多いので、通訳を始めたばかりの通訳が結構引き受けるジャンルだ。
たとえば・・・
1985年といえば、私が通訳としてデビューしてまだ1年半のころ。
本田技研工業青山本社にダイアナ王妃がいらっしゃって、
本田技研工業の会長、本田宗一郎氏との通訳があったが、
単なる挨拶レベルの通訳で超簡単、しかもたった2時間のお仕事で、
楽しいいい思い出になった。
もうひとつ楽しい思い出になったのは、
虎ノ門にあるJETRO(貿易振興会)さんからの仕事だった。
スリランカの通産省関連のお役人が来日して、スリランカ紅茶の売り込みに来た。
日本全国の商社を北海道から沖縄まで旅しながら売り込みに行った。
旅先で、受け入れ先からいろいろなおもてなしを受けるが、
通訳もついでに傍にいるので、ご馳走などを一緒にいただくことができ、
とても楽しい思い出になっている。
特に、岩手県、盛岡の「わんこそば」は、テレビで見たことはあったが、
本当に傍に女性がいて、早く食べろ食べろとあさらせる。
「マジか!」と必死になって飲み込んだ思い出が、今となっては楽しい思い出だ。
私にとっては、会議室で緊張と戦いながらする通訳よりも、
全国をめぐりながらやるお仕事は実に好きだった。
時々観光通訳についての質問を受けるが、私にはそれにお答えする資格がない。
観光通訳業は、旅行代理店管轄の仕事で、
通訳事務所は、その種の仕事は請け負っていないからだ。
また、観光通訳士は日本史などの国家試験があり、全く違う世界の通訳である。
それもやれば楽しいかもしれないが、
私には不向きなのでやりたくはなかった。