いつも会議通訳の経験談が多いので、今日は翻訳の話しにしましょう。
麻布十番のある事務所でのことです。
いつもどおりに和文を英訳して提出いたしました。
納品する前に、ハワードさんというネイティブに外人校閲をしてもらっています。
外人校閲とはネイティブ・チェックとも呼ばれ、
文字通りネイティブの方に英訳を最終チェックしてもらうことです。
いかに熟達したプロの翻訳家であろうと、必ず行います。
表現・文法的に完璧であっても、ネイティブの人はこんな言い方はしない・・・
ということが必ずあるからです。
ところが、ある日だけハワードさんはできませんでした。
理由は聞いてません。
そこでやむなく、別のネイティブの方に発注をかけました。
初めてのおつきあいです。
すると、校正がいっぱいされて原稿が戻ってきました。
事務所はこういいました。
「高松さん、今回はどうされたんですか?」
「えっ、何が?」
「いや、今回に限り、結構校正が多かったです。
いつもならほとんど校正されていないのが・・・」
私は恥ずかしさと、多少のイラダチを感じながら、
その原稿を読みました。
読んで意味がわかりました。
事務所スタッフにこういいました。
「これは間違ってるからじゃなくて、
その方の好きな言い回しに変えてしまっているだけですよ」
スタッフは確認のため、ネイティブの方に電話をかけました。
電話が終わって、こういいました。
「やっぱり、いつものハワードさんでないといけないですね。
高松さんが言ってたとおりで、
高松さんの英語は完璧なので直すところがない。
ネイティブの方は、さぼっていると思われるのがいやで、
不必要な箇所まで自分なりの言い回しに変えてしまったそうです・・・」
つまり、言葉なんて正解はありません。
ひとつのことを言うにも、
いくらでもいろんな言い方ができる。
また、昔はそういったけど、
今は死語(古臭い言い方)となっている言葉もあります。
最近はやっている言葉もあります。
若い世代にしか通じない言葉もあります。
間違った表現も、
皆が使えば、それが正しい言葉と認知されます。例えば・・・
I don’t want anything (正解)
I don’t want nothing (間違い)
学校では後者は間違いです。
でも、実際はよく耳にします。
She doesn’t love you (正解)
She don’t love you (間違い)
後者は間違いですが、これもよく聞きます。
アメリカのABCニュース、CBSニュース、CNNニュースは日本でも見られます。
どういうわけか、ABCニュースだけ、英文法的に間違った英語が聞かれます。
ABCニュースの悪口を言いたいのではありません。
英語は(いや、どんな言語でも)生き物で、
学校で習ったとおりにはいかないということです。
辞書もしかり。
辞書に書いてるからといって100%信用するかもしれませんが、
死語が時々見受けられます。
言葉は生き物である・・・ それを忘れないでください。