1983年、通訳デビューをして最初の仕事が商談でした。
それもある通訳の方が病気で来れなくなったので、
「明日で悪いけどピンチヒッターをやってくれませんか?」という依頼でした。
赤坂にある日商岩井(株)の商談で、
中近東諸国からの原油の輸入会議でした。
私は和英、つまり日本語を英語に訳す担当で、
別の女性通訳が英和、つまり英語を日本語に訳す担当でした。
私は、日本語に耳を澄ませながら、直訳していきました。
5分ほどすると、疲れ始めました。
そして10分後には、もうくたくたでした。
そんな状態で、会議は何と4時間も続いたのです。
(途中20分間の休憩はありましたが)
終わったときには、放心状態でした。
頭がくらくらしていました。
一方、女性通訳の方は、全然疲れなかった様子でした。
私とは逆の、英語から日本語への通訳とはいえ、涼しい顔つきでした。
橋本龍太郎氏お気に入りのベテラン通訳さんだったそうで、
ルーキーの私とは、経験が全く違いますが・・・
どんな通訳も最初は失敗談があるものです。
なので、「気にするな!」と自分に言い聞かせ、立ち直ろうとしました。
私はその後、だんだんと通訳に慣れ、上手くなっていったのですが、
何が変わったのか振り返ってみると、ひとつのコツがあることに気づきました。
それは、だんだんと英作文をしなくなっていったことです。
日商岩井さんでのデビュー戦では、言葉を口頭翻訳(それも直訳)していました。
学校の英作文のような感じでした。
だから疲労がひどかったのです。
慣れてくるにつれ、
言葉を訳すのでなく、イメージを伝達するだけになりました。
相手が伝えたいことは何かと、イメージを大まかに捉えるようになりました。
すると、日本語での主語を英語でも主語として訳したりしなくなりました。
1文の日本語を2文の英語に分けたりもしました。
文章の順番も自由に変えました。
つまり、発想の転換がうまくなったみたいです。
頭の中は文章があるのでなく、絵柄がありました。
それ以降、疲れなくなりました。
さて、本日みなさんにお伝えしたいことは、
日本語を頭に思い浮かべて、それを訳したりしないことです。
おそらく無意識にやっているはずです。
みなさんは通訳など関係ないでしょうが、
日常会話を話すときでも、この原則はそのまま当てはまります。
ちょっと例を挙げましょう。
数日前TVニュースで政府高官がこんなことを言っていました:
「人々は十分なエネルギー供給、そして安価で供給されること、
さらにはその安全の確保と全てを期待されていますが、
それら全てを手に入れようということ自体無理な話です」 と。
この発言をイメージで捉えてみるのです。
多くの人々が、3つものを欲しがっている、とイメージします。
1. 十分なエネルギー供給
2. 安価であること
3. 安全であること
これら全てを入手するのは無理、というのが発言の主旨です。
要はそれが伝わればいいだけなので、
あとは自分の言いやすい発想と単語を使って、自由に表現すればいいのです。
とにかく、直訳しないことです。
例1:
Many people want enough supply of energy at the reasonable price and they expect the assuranc of safety at that, but
it is almost impossible to realize all those.
(多くの人々は安い価格でエネルギーを十分に供給されること、そしてしかも安全性の確保も期待しています。
しかし、これら全てを実現かすることはほとんどムリです)
例2:
What majority of people demand are three things; one, enough energy supply, two, low price, three, its safety.
It is like crying for the moon to ask for everything. It is not feasible!
(たいていの人々が望んでおられることというのは3つですね。1つは、十分なエネルギー供給。2つ目は、安価な価格。3つ目は安全性の確保ですね。それは実現不可能ですよ。)
言い方はいくらでもあります。
自分が言いやすい発想に変えてしまうことです。
苦痛だった英作文が、驚くほど楽に、楽しくなるはずです。
是非実践してみてください。